(原文はB5判 縦書き3段組み)

 

          凌 霜 う た ひ 会 ( 東 京 )

                         忘年謡会の記

  十二月十九日の第三土曜。出光興産の御厚意で出光大久保寮を会場に貸して戴けることに

なったので行って見ると十帖と八帖続きで、前は芝生の広庭と築山があり、春又は夏の夕な

ど佳境を思わせるところ。当日は出席の前触れのあった中山清三郎氏と小西幸之助氏とが差

つかえて来られなかったが、その代り中村新三郎氏の加入があって集る者二十名内四名は夫

人会員だった。

  此前、箱根の夏季別会では佐々木義彦氏夫妻が出席の筈だったが、会場を間違えて熱海へ

行かれ、一生懸命探したが見当たらず失敗したという記事が「早合点」と題して経団連月報

に載っているので全員一同に回覧する。伊藤述史氏が暫く顔を見せないと思っていたら入院

加療中との便りがあった。

  宝生流は会員五・六名だが毎回出席されるのは江波戸鉄太郎氏と玉伊辰良氏夫妻の三人

だ。この御三人、口八丁手八丁で仕舞ござれ、囃子(大小鼓、笛)ござれで仲々多能だが望

むらくは他の宝生流会員の参加を切望する。喜多流は滅多に顔が揃わなかったが、今度藤田

寿雄氏がタイから帰国されたので春の初会には松本幹一郎、久住昌男の三氏に加えて太鼓の

名手今井明氏も出席される形勢で、今から張切っている。

  観世流では当日の左記番組の通りで、言わずと知れた多士儕々だ。臼井経倫氏は欧米から

帰国早々出席されたが謡を謡うと英語が飛び出しそうだというので自粛。(以下敬称略)

  (素 謡) 

  巻 絹   森川 瑛  ・ 清水光次  ・ 中村新三郎

  山 姥   木阪規矩三 ・ 安村慶次郎 ・ 藤井喜代治

  葛 城   江波戸鉄太郎・玉伊辰良夫妻

 (独 吟) 

  景 清(安村)。   鐘之段(三木静雄)。  葵 上(木阪)。

  井 筒(田中梅作)。 藤 戸(松川武一)。  俊 寛(藤井)。

 (一 調) 

  花 筐(沢木正太郎・音 申吉)。

  籠太鼓(玉伊夫妻)。

 (仕 舞) 

  雨 月(清水夫人)。

  葛 城(江波戸鉄太郎)。

 (囃 子)

  鉢 木          (大)西川 清 (小)玉伊夫人 (地)高田 透・田中梅作

 (舞囃子)

  松 虫 (立)高田夫人 (大)西川   (小)沢木   (地)音・高田・田中

 

  右終って午後六時から忘年懇親会に移る。昼間、鼓を鳴らし、颯々の声を響かせたエネル

ギーの衰えも見せず、一年間愉快に謡って過ごしたことや、来年の企画、さては如水会との

合同謡会の相談など、次から次とかつ談じ、かつ飲み、かつ演じ、和気満堂裡に、「商神」

を合唱して散会した。

 終りに、会場を貸して下された出光興産の御芳志に対し深甚の謝意を表します。

                                     (高田 記)