(原文はB5判 縦書き3段組み)
凌霜うたひ会(東京)の記
凍 瑠 生
謡曲の会というものはクラスの上下を問わず齢の老壮を論ぜず、
しかも妻子をも交えて同好者が一堂に会して一日の清興を共にす
ることが出来るので、色々の同窓の寄合の中でも他に例を見ない
ほど打ちとけた親しみの深い、しかも健全な趣味の会である。
現在、東京凌霜うたひ会では古いところでは一回の伊藤述史氏
を先頭に新しいところでは昭和丗一年卒の角森近藤両君に至るま
で多くの年次を網羅して多士儕々である。尤も謡の巧拙は殆ど問
題にしない。各々の流儀で謡えばよいことにしている。謡を少し
でも噛っている人は歓迎される。そのような人を数えると百人を
超えると思うが毎月の例会の出席者は婦人も交ぜて十四五人程度だ。
およそ謡に限らずこの種の芸能は或る程度天狗にならねとやれないものなので、おのずから大天狗、小天狗、中天
狗がいる。そういう天狗族が毎月寄っては、雲を呼び風を起こす。中には天女佳人となって幽玄の花を咲かす。また
年二回位い温泉地に会場を移して浩然の気を養う。去る二月七・八両日は本会の五十回を祝して席を熱海小嵐荘に設け
たところ来り会する者二十名、内六名は奥さま天狗梅ほころび柑橘匂うなかで心ゆくばかり清興をほしいままにした。
凌霜誌上を拝借して当日の演し物と出演者名、並びに寄せ書と写真を掲げて同好諸兄への報告といたします。
(素謡) 羽衣・巴・百万・嵐山・忠度・弱法師・天鼓・安達原・猩々 (独吟) 鵜之段・藤戸・井筒
(独鼓) 雲林院 (一調) 班女・勧進帳 (舞囃子) 船弁慶
(出席者) 敬称及役割略、写真参照
(前列左より) 武藤周太郎(11)、西村二郎(12)、玉伊辰良(19)、伊藤述史(1)、高田透(10)、澤木正太郎(来賓)
(中列左より) 清水夫人、玉伊夫人、高田夫人、三木夫人、河崎夫人、松川夫人
(後列左より) 藤井喜代治(10)、松川武一(10)、清水光次(24)、安村慶次郎(23)、音申吉(6)、日塔治郎(6)、
小西幸之助(12)、臼井経倫(9)
(附記) 本誌一五三号に当会員の銘々伝を載せておきました。
(世話人 高田 透)