2020年8月14日
大角征矢氏による「観世流演能統計」
久下昌男(S38年卒) 記之
1.はじめに
能の曲目数は 200余曲にのぼりますが、物好きな謡曲ファンとして『戦後すべての曲が上演されたの
だろうか』とか、『今までの最高上演数を誇る曲は何であろうか』などは、従来から頭の片隅にひっか
かっていた疑問点ではありました。
今回ご紹介しますのは、昭和25年から令和元年の70年間におよぶ演能の記録を集計したものです。昭
和25年(1950)~平成21年(2009)の60間は大角征矢氏が集計作業に当られ、直近の平成22年(2010)
~令和元年(2019)の10年間は、大角氏の後を引き継ぐ形で筆者が集計作業に携わりました。
大角征矢氏は、筆者の同学、同好の大先輩であり、そのご縁でこの統計結果を頂戴しました。当初頂
戴したのは昭和25年(1950)~平成11年(1999)の50年間の集計結果でした。この膨大な資料を拝見し、
よくこれだけの集計をされたものと本当に驚きました。同時に、これこそ「謡曲の統計学」に最も相応
しい内容ではないかと思い、本サイトにて紹介させていただきたい旨をお願いしましたところ、こころ
よくご承諾いただきました。大角氏のご好意によりやっと本来の統計学の体裁を整えることができたと
感謝しております。
その後平成23年に、平成12年(2000)~21年(2009)の10年間の演能記録を加算した「戦後60年間
の演能統計」を頂戴しました。
さらに10年が経過した令和2年の現在、平成22年(2010)から令和元年(2019)にいたる10年間の演
能統計は、筆者が担当して統計資料を作成しました。
70年間の演能統計を上梓するに際して、一部の資料については、当初大角氏が作成された資料を変更
したものもあり、大幅な改定を行っています。また以下のコメントで、大角氏の手になるものは「青色
のゴシック体」で記載しています。
2.演能統計の前提条件
大角氏は檜書店刊行の月刊誌『観世』の巻末に掲載されている演能予告番組をもとに統計をとられま
した。以下は、昭和25年(1950)~平成21年(2009)の60年間の集計作業において、大角氏が設定され
た前提条件です。
①集計期間は、戦後復刊されて間もない『観世』昭和25年1月号から平成21年12月号までゞ、ちょうど
60年間 720ヶ月の統計がとれるので、この期間としました。
なお、60年の期間なので便宜上、10年ごとのまとまりとして、
A期 昭和25年~34年 (1950~59年)
B期 昭和35年~44年 (1960~69年)
C期 昭和45年~54年 (1970~79年)
D期 昭和55年~平成元年(1980~89年)
E期 平成2年~11年 (1990~99年)
F期 平成12年~21年 (2000~09年)
の6期および、通期(昭和25年~平成21年)に区分してみました。
②統計の対象は、シテ方観世流の「日本国内における有料演能」とし、いわゆる「五流能」や、
一曲の演能で、ツレ(たとえば『大原御幸』の法皇や『土蜘蛛』の頼光)などが他流との共演
であっても、シテが観世流の演能であれば、それを統計に加えました。
③演能曲目は、檜書店刊『観世流謡曲全集』(大成版~正・続百番集合本)の曲目の範囲としま
した。但し『大典』は除き、『乱』は『猩々』に、『笛之巻』は『橋弁慶』にそれぞれ加えました。
また、最近正式曲目に組み込まれた『松浦佐用姫』『三山』はこの集計にはなじまないので除外し、
いわゆる新作能・復曲能・試演の類の演能も統計より除外しましたが、現行曲を往時の演出で行った
もの(たとえば世阿弥自筆本による『雲林院』『弱法師』など)は、当該曲として集計に加えました。
なお、『翁』は別格とし、以上現行曲 207番の集計・分析のあと、『翁』を加えることゝしました。
④演能種別は、正規の装束能のほか、半能や袴能も〈一曲の能〉として加えました。
⑤演能場所は、能楽堂のほか、○○会館や野外(薪能)なども含めました。
⑥カルチャー講座などの演能で、一日のうちに2回、同一人物が演じたり、またはシテの演者を変える
などして演じられた場合は、それぞれ1回の演能として集計しました。
⑦シテの逝去その他で、当日実際には演能されなかったかも知れないものも、演能されたものとして
計上しました。但し事前に明らかに演能中止になったものは、これを省きました。その典型的な例は、
平成7年1月17日の阪神大震災の時期(その直後当分の間)の被災地区における演能であります。
(平成23年3月11日の東日本大震災、および平成27年9月7日の関東東北豪雨の時期に演能中止となっ
たものもこれに該当します。…筆者)
また『観世』誌の予告掲載にはないが私の知る限り確実に演能されたものは、統計に加えました。
概ね以上の前提条件のもとに統計を採りました。しかし、毎月の『観世』誌原稿締切り後に到着した
各会番組は、月遅れの『観世』に〈補遺〉の形で掲載されることがあり、また一部不完全な番組~曲目
とシテのみの掲載があって、翌月に〈三役完備〉の番組が掲載されたりして〈この場合は明らかに重複〉
ダブり集計や、或いはその年度内に集計されるべきなのに翌月分に集計されたりする事が、遺漏なきや
と問わゝれば、完璧な自信はありませんが、私なりに、かなり丹念に調べたつもりです…。
上記の大角氏の前提条件に基づき、筆者がその後直近の10年間の集計作業を行い、これを"G期"として、
大角氏の60年間の統計に付加しました。すなわち、
G期 平成22年~令和元年(平成31年) (2010~2019年)
で、通期は 昭和25年~令和元年(平成31年) (1950~2019年)
の70年間となります。
『観世』誌の演能予告に基づいて統計をとりましたが、近年は『能楽タイムズ』や、インターネット
の『柳の下』の「能楽公演情報により、これを補完しました。
演能の「有料・無料」の区分は、主催者の公告(チラシなど)や、『能楽タイムズ』および『柳の下』
の記載を参考にしました。
概ね大角征矢氏の集計方式を継承し、私なりに正確を期したつもりですが、一部の演能については、
その細部が不明であるため、本統計に算入すべきか否か判断に迷ったものもあり、大角氏の意図を継承し
得たかどうか、疑問に思われる点もあります。
大角征矢氏による「観世流演能統計」
大角氏征矢氏(昭和25年卒)による統計結果に久下昌男氏(昭和38年卒)が加筆編集された統計表です。
統計本表①~③は1曲ごとに60年間の演能数を集計したEXCELファイルです。1ファイル毎に10曲×7シートを収容しています。
上記PDFファイルと下のEXCELファイルは前半60年前まで同一です。
事情によってEXCELファイルは更新しておりません
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